Mar-04
レイオフ!
2003年1月21日(火)午後1時。Geron(ジェロン)社は会社創設以来2度目のレイオフを発表した。当時の全社員の40%強に当たる40名。雇用終了は11日後の2月1日。私は生まれて初めて、解雇の宣告を受けたのだった。奇しくもこの日は私の39歳の誕生日。何とも覚えやすい日にしてくれたものだ。なぜ火曜日だったのか。前日の月曜日はMartin Luther King’s Dayという祝日で、この日が週の始まりだったのだ。
当社のレイオフ自体は7ヶ月前にも一度 あったので、慣れているとは言わないまでも、思っていた程のショックではなかった。まず頭に浮かんだのは、会社を通じて申請中のグリーンカード(アメリカでの永住権)がどうなるのだろうということだった。
ひとりひとりが上司との面談で解雇を告げられた後、午後の残った時間は社外の知人に連絡したり、会社にある私物をまとめ始めたり、同僚ととりとめのない会話をしたりしているうちに過ぎて行った。今後いくつかの事務手続きがあり、中にはいくつかの選択肢の中から本人が決めるものもあるので、目を通さなければならない書類も多い。
夜、自宅にて早速求人情報のウェブサーチを開始。昨年からDSLを使っているので楽だ。Palo AltoのA社という製薬のスタートアップが、ちょうど自分程度の経験を有するメディシナルケミストリーのSenior Scientistを募集していて、興味を引かれる。新しいタイプの抗菌剤開発を目指しているようだ。社名さえ初めて見る会社だが、第一印象で何となく感じるものがあり、スタートアップカンパニーもいいかなと思う。この日を就職活動第1日としよう。
Geronという会社はアメリカ西海岸、サンフランシスコから南へ40 km程のMenlo Parkという町にある。単にシリコンバレーにありますと言った方が、イメージが沸きやすいだろうか。いわゆるバイオベンチャーである。シリコンバレーにはIT関係ばかりでなく、主に医薬品の開発を目指したバイオベンチャーも多数集まっているのだ。ところでこのバイオベンチャーという言葉、英語ではあまり使わない。バイオテックカンパニー(biotech company)あるいは単にバイオテックと呼ぶのが普通だ。
この会社は、老化の防止と癌の治療を目指して1992年に設立された会社である。やや専門的な話になるが、そのためのアプローチとしてテロメラーゼという名前の酵素に着目している。この酵素は、ヒトが老化すると細胞が分裂しなくなるのはなぜか、あるいは癌になると細胞が無限に増殖するのはなぜかといった問題に深く関わると考えられている。しかしながら、その後ビジネスの重心をヒトES細胞(胚性幹細胞)を用いた再生医療分野にシフトしているので、そちらの方面で社名を聞いたことのある人もいるかも知れない。
私は2001年の夏から、抗癌剤領域の上級研究員(Senior Scientist)としてこの会社で働いてきた。医薬品を目指す化学のことを医薬品化学またはメディシナルケミストリーと呼び、それを仕事にする人をメディシナルケミストと呼ぶが、私もこれに含まれる。それ以前は日本の製薬会社に勤めていたが、とあるきっかけで転職したのである。残念ながらその後シリコンバレーの景気は業種を問わず急激に悪化する一方で、多くの会社がレイオフを余儀なくされる事態となっている。