ベンチャーで働くということ

 

当然ながら会社の安定感という意味では、大企業とは比較にならない。最近では大企業であっても突然破綻する場合もあるとは言え、ベンチャー企業に比べればまだ例外的な話である。将来どうなるかはわからないけれど、日々の営みという意味でベンチャーがいいと思う点は、小さな会社では意思決定や方向転換が素早くできることだ。いわゆる小回りが効くというやつである。大企業では、ひとつの意思決定に多大な時間と労力を必要とすることがストレスの原因になることが多いが、それが少ないのはかなり快適である。また研究員(一般社員)レベルであっても、プロジェクトの意思決定に関わる度合いが高い。さらに各自の仕事が見えやすく、自分の業績が会社のビジネスや、会社からの評価に反映されやすいことも、モチベーションとなる。そして何と言っても、事業や会社が大化けするチャンスがある。それを楽しみにできるか、あるいはそんなケースは万にひとつだと一蹴してしまうかはあなた次第だ。

 

ベンチャーと言えば始めにアイデアが必要である。バイオ系の場合、通常基盤となる独創的な技術がある。それがなければ始まらないし、自分には世界初の技術やアイデアを生み出す力はない。だから自分にはベンチャーの起業なんて無理だ。ベンチャーというのは何となく心ときめかせる響きがあるけれど、結局自分には縁のない世界だ。という思考に陥りがちだ。しかしそうではない。必ずしもあなたが起業する必要はないのである。新しいアイデアや技術を持って、会社を起業する人はたくさんいる。特にシリコンバレーにはたくさんいて、その理由はよく知られているように、シリコンバレーにはベンチャー企業をサポートし育成する仕組みが確立され、機能しているからだ。自分が特別ではなくても、そうやって次々と生まれる会社に参加することは可能である。いくらファウンダーが天才だとしても、社員となって献身的に働く人々がいなければ事業は成り立たない。当たり前だが天才だけでは何もできないのである。そこに弁護士や会計士、投資家などが集まって形を整え、社員を集めて事業を稼動させて初めて何かが起こるという意味で、一般社員たちだってベンチャー企業の必須アイテムなのである。

投資家はお金を投資して事業を育成し、対価に株式を得てキャピタルゲインによるリターンを期待する。個人である私はその会社の実務に必要な能力と労働力を投資する。日々の給料と共にストックオプションも得て、成功の暁にはやはりそれなりに大きなリターンを期待する。ベンチャーキャピタルは日々の給料がない代わりに複数の会社に投資してリスクを分散する。私は複数の会社に労働力を分散できない代わりに、事業の成否に関わらず一定の報酬を得るのである。

 

さらに言えば、必ずしも最初のひとつで当てる必要はないのだ。「となりの億万長者」や「なぜこの人たちは金持ちになったのか」の著者トマス・J・スタンリーによれば、億万長者になった人たちも、3回くらいは失敗した後で成功している場合が多いという。「金持ち父さん」シリーズのロバート・キヨサキだって最初のうちは失敗もしている。どんな形であれ、原則として成功は1回すればいいのである。23年で結果が見えることが多いハイテク系のベンチャーと比べると、バイオベンチャーは結果が出るまでに少なくとも5年以上かかる。それでも一生の間に何回もやり直すチャンスはある。会社勤めをしていて億万長者になれるケースは非常にまれだが、可能性がゼロではないのもシリコンバレーだし、実際そういう人がたくさん住んでいる場所でもある。ストックオプション制度によって、億万長者とまではいかなくても一晩で一軒家の頭金を作るくらいのチャンスは、十分期待してもいいのではないかと思う。逆にそんなことでもないと家が買えないほど、シリコンバレーの住宅価格は高いとも言えるのだが。

ベンチャー企業の仕事は終着点の見えないローラーコースターのようなものだ。それを楽しいと感じ、どう転んでも何とかなるさという、楽天的かつ前向きに自分を信じる気持ちがある人には向いている仕事だと思う。

 

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